読書三昧 【おすすめ書籍 86】加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)『戦争まで』(朝日出版社) 戦後80年の節目の年ということもあり、ようやく日本近現代史の泰斗、加藤陽子氏の著作を読む機会を得ました。2冊とも中高生に向けての講義集です。小林秀雄賞受賞の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』にはジャン=ジャック・ルソーの次の言葉が繰り返し紹介されています。「戦争とは相手国の憲法を書きかえるもの」。 2025.10.11 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 85】小川哲『地図と拳 上下』(集英社文庫) 第168回直木賞受賞作の本書は2025年夏の一冊として待望の文庫化となりました。人はなぜ「地図」を描くのでしょうか、そして世界はいつまで「拳」を振りかざし、戦争に向かうのでしょうか。本書に登場する戦争構造学研究所は今年NHKでドラマ化もされた原作『昭和16年夏の敗戦』の総力戦研究所を想起させるところもあり、昭和100年・戦後80年の節目の年ならではの繋がりを感じます。深緑野分による解説も秀逸で、繰り返し頁を捲りたくなる作品です。 2025.09.03 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 84】河野龍太郎・唐鎌大輔『世界経済の死角』(幻冬舎新書) 『日本経済の死角』の河野龍太郎と『弱い円の正体 仮面黒字国日本』の唐鎌大輔という人気エコノミスト2人による対談が実現しました。昔は世界情勢が危なくなるとドルとともに円も買われたという「有事の円買い」もいまはなく、円が普通の通貨になったようです。 2025.08.10 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 83】齋藤ジン『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』(文春新書) 新自由主義の経済システムで1番恩恵を受けてきたのが中国です。かつての「日本叩き」のように、アメリカ経済を脅かす存在になった中国にダメージを与えるため、覇権国家アメリカは力業でシステムを変えていくのです。まるでカジノのオーナーがルールを変えていくかのように。トランプ関税はその中の一手に過ぎないのでしょう。著者はその新しい世界秩序で敗者の国が多い中で日本は相対的にいいポジションに行くことが可能である、と説いています。 2025.08.08 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 82】フェリックス・フランシス『覚悟』(文春文庫) ディック・フランシスの「競馬」シリーズが甦りました。それもあのシッド・ハレ―を主人公にしたものですから、ファンにはたまりません。「利腕」「大穴」「敵手」そして「再起」。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞など高い評価を得ていた伝説のシリーズを申し分なく継承しています。著者はディック・フランシスの次男フェリックス・フランシス。訳者加賀山卓朗氏、編集者永嶋俊一郎氏と三拍子揃った新「競馬」シリーズの開幕に乾杯! 2025.07.05 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 81】J・D・ヴァンス『ヒルビリー・エレジー』(光文社未来ライブラリー) 2024年のアメリカ大統領選でドナルド・トランプが勝利した時、副大統領になったのが本書著者のJ・D・ヴァンスです。2016年刊行の本書は白人労働者の多くに支持されたのでしょうか、アメリカで300万部を超えるベストセラーとなりました。激戦区ラストベルト出身のヒルビリー(田舎者の)・スピリッツが、トランプ陣営の勝利にも大いに貢献し、いまでは次期大統領に最も近い存在となっているヴァンス。その半生記は、祖父母や母についての記述も多く、さながらラストベルトの『百年の孤独』として、さらに多くの国々で読まれていくことでしょう。 2025.06.30 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 80】河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書) 過去25年でアメリカは生産性が50%上がり、賃金は25%増。フランスも生産性が20%上がり、賃金も20%弱上がっています。しかしながら日本は生産性が30%上がっているにもかかわらず、実質賃金はまったく上がっていない・・・。本書ではこの謎を解明しています。2024年ノーベル経済学賞を受賞したダレン・アセモグル、サイモン・ジョンソンそしてジェイムズ・ロビンソンの著作の併読をおすすめします。キーワードはシステムが「収奪的」か「包摂的」かです。 2025.05.22 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 79】向井万起男『メジャーリーグに魅せられて』(さくら舎) 著者は向井万起男さん。メジャーリーグ通で、本書は朝日新聞連載「大リーグ大好き!」2007年4月~2018年4月掲載分と書下ろし原稿を再編集したものです。著者はアメリカを車で旅することが数多くあったようです。メジャーリーグのレジェンドたちの聖地の数々を訪ねています。また未訳も含めてメジャーリーグに関する書籍やちょっとした台詞が入った映画や小説をも紹介しており、MLB愛好家には嬉しい情報が満載です。 2025.05.06 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 78】鈴木結生『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版) 第172回芥川賞受賞作品。朝日新聞「好書好日 本と出合う」での著者インタビューによると、鈴木結生さんは小学生の時に既に「聖書」と「神曲」を読破していたようです。23歳にしてこの知的興奮に満ちた作品を創作できたのは、驚くべき読書量と敬虔な文学への愛の賜物なのでしょう。 2025.05.06 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 77】近藤滋『エッシャー完全解読』(みすず書房) 野矢茂樹氏による朝日新聞での書評で「いやあ、推理小説を読んでもこんなに興奮したことはない」と書かれてはもう読まずにはいられません。エッシャーの作品は一見自然に見えるのですが、良く見るとありえない「だまし絵」になっています。ありえない形がなぜ自然に見えるかを著者は緻密に謎解きを進めていきます。そして解き明かした時の大きな驚きや興奮が作品ごとにあるのです。 2025.05.06 読書三昧