読書三昧

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【おすすめ書籍 60】宇佐美まこと『羊は安らかに草を食み』(祥伝社文庫)

満州からの引き揚げという苦難を体験した者たちの生涯隠し通した「秘密」とは。認知症になった友人の人生を辿る、八十歳前後の女性三人による旅と彼女が子供だった頃の満州からの引き揚げという2部構成で、その「秘密」が徐々に明らかになっていきます。本書では満州で育った人々から中国語のメイファーズという言葉が出てきます。悲しみを受け入れて前へ進むしかないことを意味する象徴的な言葉です。
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【おすすめ書籍 59】ラテン語さん『世界はラテン語でできている』(SB新書)

古代ローマ帝国の隆盛やラテン語が世界を席巻していたことの誇りがあるのでしょう。イタリアでは高校でラテン語を必須教科にしていることが本書を読むとわかります。「SPQR」「Audi」「VICTORIBUS PALMAE」「SINE METU」。現代の日本でも美術館や街中あるいは自宅の食卓でも、これらのラテン語を見かけることがあり、ちょっと豊かな気分に浸れます。教養としてのラテン語ブームはまだまだ続きそうです。
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【おすすめ書籍 58】外山滋比古『新版 思考の整理学』(ちくま文庫)

1986年4月24日の文庫化第一刷発行から40年近くで287万部のロング&ベストセラー。毎年3月から5月のこの時期になると面白いように売れていた殿堂入りの一冊です。今回の新版では、2009年の東大特別講義「新しい頭の使い方」が初収録されたほか、文字も大きくなり一段と読みやすくなりました。「思考の整理には、忘却がもっとも有効である」という言葉には、いつ読んでも救われます。
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【おすすめ書籍 57】池上彰 佐藤優『グリム、イソップ、日本昔話 人生に効く寓話』(中公新書ラクレ)

新自由主義の現代を生き抜いていくのは大変です。そんな時代だからこそ、20篇の寓話や昔話が人生の指針に効くのだと、二人が読み解いていきます。かつて倉橋由美子の『大人のための残酷童話』や桐生操の『本当は恐ろしいグリム童話』が良く売れていましたが、その系譜に連なる本作も時代に抗うレジリエンスという読み方が加わり、多くの読者を獲得しています。
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【おすすめ書籍 56】宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

『成瀬は天下を取りにいく』で鮮烈に登場した主人公の成瀬あかりは、2024年元日恒例の新潮社の新聞広告にも出ていました。成瀬がますます大物になってきたことが実感でき、ファンとして嬉しい限りです。続編である本作は大学を受験、入学した成瀬が学校やアルバイト先、地域で新たに個性豊かな人々と知り合います。いつしか頼もしくなっている彼らの成長を永く読んでいたい!
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【おすすめ書籍 55】常盤新平『山の上ホテル物語』(白水社)

昭和29年創業の山の上ホテルは、建物の老朽化への対応を検討するため、70周年を迎える2024年2月13日より当面の間、休館することとなりました。ホテルの外観や月刊文藝春秋等への広告コピーを思い出された方もさぞかし多いことと思います。吉田俊男という不世出のホテル屋と「この人」にならついてゆけると思った人々の物語をこの機会にぜひ味わってください。
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【おすすめ書籍 54】高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮選書)

ウクライナ戦争やイスラエルによるパレスチナガザ地区への侵攻など戦争が続いているこの時代に、『国際政治』や『文明が衰亡するとき』の著者生前の名講演が書籍化されました。「〈いい人〉の政治家が、なぜ戦争を起こすのか」「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」氏が語る「戦争の世紀」が再来した今、あらためて高坂史観を学ぶ人が増えてほしいと思える一冊です。
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【おすすめ書籍 53】池上彰『歴史で読みとく!世界情勢のきほん』(ポプラ新書)

世界情勢を読み解くには各国の歴史の理解が必須です。ピョートル大帝を手本にするプーチン大統領や毛沢東を意識する習近平総書記が何を目指しているのか?またフランスが人権を大切にすること、イギリスがヨーロッパではないと主張することも本書を読むと理解が深まります。今世紀台頭してきているBRICs・グローバルサウスに頁の多くを割いていることも本書の特徴です。
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【おすすめ書籍 52】逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』(早川書房)

本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』の著者による第二長編です。今回はナチ・ドイツに反抗した少年少女の物語。『検証ナチスは「良いこと」もしたのか』の著者田野大輔教授が監修を務めています。「果たして自分が当時のドイツ市民であったら、どこの立ち位置にいたのでしょうか」著者のメッセージでもあるこの問いかけは読了後も心に永く残っています。
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【おすすめ書籍 51】有吉佐和子『青い壺』(文春文庫)

『非色』に続いて令和の時代に有吉佐和子作品が売れています。単行本が昭和52年に刊行された本書は「青い壺」を廻る、多種多様な人間模様が描かれる連作短篇集です。定年を迎えたわが身にとっても身につまされる印象的な話もあり、作家原田ひ香さんに「こんな小説を書くのが私の夢です」と言わしめた人間描写の見事さで30万部超えと増刷を重ねています。