人を鼓舞する言葉の力にこんなにも感動を覚えたことはいままでになかった。連日の痺れる試合で、声出しやパフォーマンスが人を勇気づけるものだと目の当たりにした時、侍ジャパンが世界一の侍になれたことが腑に落ちた。
ダルビッシュ有の言葉。「野球なんだから楽しんだほうがいい。戦争に行くわけではないので、負けたら帰れないなどということはなくしたい」この言葉は間違いなく、侍ジャパンのメンバーたちの心に響いたはずだ。準決勝に向けてベンチ前の声出しでは「宮崎から始まって約1カ月、ファンの方々、監督、コーチ、スタッフ、この選手たちで作り上げてきた侍ジャパン、控えめに言ってチームワークも実力も今大会ナンバーワンだと思います。このチームでできるのはあと少しで、今日が最後になるのはもったいないので全力プレーをしてメキシコ代表を倒して明日につなげましょう。さぁ行こう!」合宿初日から合流し、自身の調整以上にチームを優先させ、世界一を誇る投手陣(大会チーム防御率2.29)をまとめ上げた功績は大きい。今回のWBC優勝の立役者であり、影のMVP。球威が本調子ではない中で、決勝の8回ワンイニングを投げきって大谷に繋げた。しかもシュワーバーにソロホームランを打たれたことによって、9回トラウトまで回すお膳立ては神のなせる業としか言いようがない。
牧秀悟の言葉。1次Rオーストラリア戦のベンチ前で「スタートの人たち、存分に暴れてきてください。あとの人たち、もう準備できています。いつでも大丈夫です。今日全員で勝って、見てください隣、こんな最高のチームで戦えるのはあと4回だけです。さあ行きますよ~。今日は絶対勝ちますよ~。さぁ、行こう~。」試合前の緊張感の中で、ベンチスタートの牧は空気を和らげることに貢献した。野球を楽しむ姿勢は大切だ。
ラーズ・ヌートバーの言葉。初戦から走攻守で大活躍。「家族としてあと3試合残っています。今日の試合が僕たちをマイアミに連れていきます。カッコ良く自分のプレイをして勝って飛行機でパーティしましょう。がんばりましょう~。さぁ行こう。」準々決勝のイタリア戦を前にベンチでの声出しはこの日で2回目。常に全力プレイとペッパーミルパフォーマンスとで彼の加入は驚異の化学反応を起こし、優勝後に皆から胴上げをされた今大会殊勲者の一人。
大谷翔平の言葉。決勝のアメリカ戦に向けてロッカールームでの言葉は、対戦するメジャーリーグの人たちにも聞かせたい秀逸なものだ。「僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターを見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか、野球をやっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、今日一日だけは憧れてしまったら超えられないんで。僕らは超えるために、トップになるために来たんで。今日一日だけは彼らへの憧れは捨てて、勝つことだけを考えていきましょう。さぁ行こう!」日本でのWBC初戦からその言動で常に選手を奮い立たせ続けてきた大谷翔平はまさしくユニコーン(勇敢な伝説の生き物)であり、大会MVPに相応しい活躍をした。2023年のWBCはトラウトとの対戦を頂点に球史の伝説となった。
栗山英樹監督の言葉。準決勝で逆転サヨナラ2点タイムリーの放った、不振の村上選手について「本当に世界がびっくりするようなバッターであるという、それを僕はこのWBCで証明したいと思ってやってきたので、その彼を信じる気持ちはゆるぎないものがある」名将列伝にその名を刻むこととなった栗山監督にとって最強のメンバーで最高の結果を出すことができたのは、彼のコミュニケーション力の強さを感じさせる言葉の数々が彼らを魅了させたからだろう。信じる力と言葉の力で大きな事を成す、これはスポーツの世界だけに限らない。だから人々はわが事のように言葉の力に心を動かすのである。
コメント