読書三昧

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【おすすめ書籍 22】深緑野分『スタッフロール』(文藝春秋)

映画のエンド・クレジットが長尺になっている現代とは違い、戦後ハリウッド映画のスタッフロールは短く、栄誉を享受できていた映画人は限られていました。本書はその戦後の映画界で爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダの切なる想いが時空を超える、ウェルメイドな作品に仕上がっています。第167回直木賞候補作となった一冊。
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【おすすめ書籍 21】チャールズ・M・シュルツ『心をととのえるスヌーピー』(光文社)

スヌーピーの漫画『ピーナッツ』を読みながら、「和敬静寂」「日々是好日」などの禅語の言葉を学ぶことが出来る本書は、10万部を超えるベストセラーになっています。ストレスが少なくないコロナ禍のいま、心を整えることの大切さに気づかされます。著者・訳者谷川俊太郎に加え、監修者枡野俊明の三拍子が揃い、思索的興趣が尽きません。
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【おすすめ書籍 20】エマニュエル・トッド『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)

ウクライナは「核家族」社会で、欧米のように個人主義、自由主義を重んじるのに対して、ロシアは「共同体家族」の社会で、権威主義を重んじており、ウクライナは家族システム的に西側である、と著者は見ています。またロシアによるウクライナ侵攻に対する世界各国の反応を分類した地図が、研究テーマである「家族システム」からみた世界地図と酷似しているなど、人類学的視点が興味深い一冊です。
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【おすすめ書籍 19】川本三郎『映画のメリーゴーラウンド』(文藝春秋)

ヤンキース、ミッキー・マントルの話から『グリーンブック』・『カーネギーホール』に繋がり、チャイコフスキーの話に。一本の映画作品のちょっとしたディテールから連想ゲームのように別の映画作品につなげていく、著者ならではの映画エッセイです。映画の愉しみ方はこうありたい、と感心することしきりです。
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【おすすめ書籍 18】稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

2時間の映画を倍速視聴する人がZ世代の若い人に限らずなぜ増えているのか、著者は取材を進める。ネットフリックスやYouTubeの配信サービスが膨大な量の動画の視聴を可能にし、倍速視聴で効率良く話題作や推しの作品に出会う習慣はSNSとも連動し、今日的ではある。映画好き・本好きの者として気になるのは、映画評論や書評について。映画や本のちょっとしたディテールを愉しむことを彼らは放棄しているのだろうか。
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【おすすめ書籍 17】原田ひ香『古本食堂』(角川春樹事務所)

『三千円の使いかた』(中公文庫)が50万部超のベストセラーとなり、いま最も勢いを感じる原田ひ香の作品。神保町の「鷹島古書店」が舞台です。本の街神保町界隈に通い始めて40年になりますが、本書で初めて知るところも多く、これからもまだまだ神保町を愉しめそうです。食べ物と同様に登場する人物も書物も滋味豊かで、鞄の中に入れておきたくなる一冊です。
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【おすすめ書籍 16】黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書)

副題は「ヨーロッパ最後の大国」。著者はウクライナが中・長期的に見て、大国になる潜在力があると指摘しています。面積や人口規模に加えて、ヨーロッパの穀倉とも呼ばれる農業国でありながら、工業・科学技術面でも国民の教育水準の高さによる成長性を評価しています。地政学的にも重要な位置にあることは歴史が証明しており、ロシアがなぜ潜在力のあるウクライナを影響下に置こうとするのか、知ることができる一冊です。
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【おすすめ書籍 15】鳥越規央『統計学が見つけた 野球の真理』(講談社ブルーバックス)

著者は統計学的手法で選手を評価するセイバーメトリクスの第一人者です。OPS、UZRなどの指標の設計思想や定義を解説しつつ、日本のプロ野球NPBのデータを駆使して、往年の選手や昨年の各チームを独自に分析します。2021年シーズンの鈴木誠也、源田壮亮等のプレーがいかに価値が高いものだったかを明らかにします。本場米国でビル・ジェームズがセイバーメトリクスを唱えて45年。野球は進化し続けています。
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【おすすめ書籍 14】原田マハ ヤマザキマリ『妄想美術館』(SB新書)

マハ&マリ。お気に入りの美術館や企画、未完の絵画の魅力などが縦横無尽に語られ、いつしか二人がダブル館長だったら、あるいは二人それぞれが一人館長だったら、こんな美術館があったなら!と妄想が膨らみます。ヤマザキマリが偏愛する、ルネサンス期の三大巨匠に隠れたアーティストの作品に注目です。絵画の見方が確実に変わります。
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【おすすめ書籍 13】池上俊一『ヨーロッパ史入門』(岩波ジュニア新書)

欧米人を理解するには、背骨である「ギリシャ神話」と「キリスト教」の知識が不可欠であることを以前学んだ。本書の池上先生によると、ヨーロッパが形成されるには、「キリスト教の霊性」「ギリシャ・ローマの理知」に加えて「ゲルマンの習俗」そして「ケルトの夢想」の4つの大きな構成要素が必要だった、と考察している。古代から絶対王政全盛期までが本書で、革命の18世紀以降現代までが次作の全2冊構成。