読書三昧

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【おすすめ書籍 18】稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

2時間の映画を倍速視聴する人がZ世代の若い人に限らずなぜ増えているのか、著者は取材を進める。ネットフリックスやYouTubeの配信サービスが膨大な量の動画の視聴を可能にし、倍速視聴で効率良く話題作や推しの作品に出会う習慣はSNSとも連動し、今日的ではある。映画好き・本好きの者として気になるのは、映画評論や書評について。映画や本のちょっとしたディテールを愉しむことを彼らは放棄しているのだろうか。
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【おすすめ書籍 17】原田ひ香『古本食堂』(角川春樹事務所)

『三千円の使いかた』(中公文庫)が50万部超のベストセラーとなり、いま最も勢いを感じる原田ひ香の作品。神保町の「鷹島古書店」が舞台です。本の街神保町界隈に通い始めて40年になりますが、本書で初めて知るところも多く、これからもまだまだ神保町を愉しめそうです。食べ物と同様に登場する人物も書物も滋味豊かで、鞄の中に入れておきたくなる一冊です。
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【おすすめ書籍 16】黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書)

副題は「ヨーロッパ最後の大国」。著者はウクライナが中・長期的に見て、大国になる潜在力があると指摘しています。面積や人口規模に加えて、ヨーロッパの穀倉とも呼ばれる農業国でありながら、工業・科学技術面でも国民の教育水準の高さによる成長性を評価しています。地政学的にも重要な位置にあることは歴史が証明しており、ロシアがなぜ潜在力のあるウクライナを影響下に置こうとするのか、知ることができる一冊です。
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【おすすめ書籍 15】鳥越規央『統計学が見つけた 野球の真理』(講談社ブルーバックス)

著者は統計学的手法で選手を評価するセイバーメトリクスの第一人者です。OPS、UZRなどの指標の設計思想や定義を解説しつつ、日本のプロ野球NPBのデータを駆使して、往年の選手や昨年の各チームを独自に分析します。2021年シーズンの鈴木誠也、源田壮亮等のプレーがいかに価値が高いものだったかを明らかにします。本場米国でビル・ジェームズがセイバーメトリクスを唱えて45年。野球は進化し続けています。
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【おすすめ書籍 14】原田マハ ヤマザキマリ『妄想美術館』(SB新書)

マハ&マリ。お気に入りの美術館や企画、未完の絵画の魅力などが縦横無尽に語られ、いつしか二人がダブル館長だったら、あるいは二人それぞれが一人館長だったら、こんな美術館があったなら!と妄想が膨らみます。ヤマザキマリが偏愛する、ルネサンス期の三大巨匠に隠れたアーティストの作品に注目です。絵画の見方が確実に変わります。
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【おすすめ書籍 13】池上俊一『ヨーロッパ史入門』(岩波ジュニア新書)

欧米人を理解するには、背骨である「ギリシャ神話」と「キリスト教」の知識が不可欠であることを以前学んだ。本書の池上先生によると、ヨーロッパが形成されるには、「キリスト教の霊性」「ギリシャ・ローマの理知」に加えて「ゲルマンの習俗」そして「ケルトの夢想」の4つの大きな構成要素が必要だった、と考察している。古代から絶対王政全盛期までが本書で、革命の18世紀以降現代までが次作の全2冊構成。
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【おすすめ書籍 12】國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(新潮文庫)

人生を楽しむためにはどうしたら良いのだろうか。著者はラッセル、スピノザ、ハイデガーなど先人たちの叡智を読み解きながら、「暇」を得た時に「退屈」しなくてもいい人間のあり方について思索を巡らす。とりわけ英国の19世紀のデザイナーであるウィリアム・モリスの思想に対する著者の解説に得心がいく人は多いに違いない。大学生や還暦を迎えた中高年の方々に読んでいただきたい一冊。
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【おすすめ書籍 11】堀川恵子『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社)

人類初の原子爆弾は、なぜ〝ヒロシマ〟に投下されなくてはならなかったか。著者はこの疑問を突き詰めるために取材を開始した。広島の宇品港が陸軍の拠点となり、当時の船舶事情に精通していた陸軍船舶司令官田尻昌次の手記など未公開史料を掘り起こす。取材を進めていく中で、「海上輸送」を重要視したアメリカとの差が次第に浮き彫りになってくる。第48回大佛次郎賞受賞の傑出した作品。
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【おすすめ書籍 10】司馬遼太郎『峠 上・中・下』(新潮文庫)

日本中が京都か江戸かに分かれて戦争をしようというときに、河井継之助は長岡藩だけはどっちにも属せず武装独立しようと思っていた。長岡という小藩に生まれたことは継之助にとって不幸であったが、長岡という小藩にとっても継之助を生んだことは不幸であった。継之助は、長岡という藩に対し、分不相応の芝居をさせようとした。
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【おすすめ書籍 9】エマニュエル・トッド『老人支配国家日本の危機』(文春新書)

フランスの歴史人口学者の著者は、日本の存亡に直結する課題として「少子化」と「人口減少」を挙げている。積極的な少子化対策を打つこと、「日本人になりたい外国人」を移民として受け入れることこそ、安全保障政策以上に最重要課題と説いている。そのためには、完璧さを求める日本人には「不完全さ」や「無秩序」を受け入れることが鍵としている。