読書三昧 【おすすめ書籍 37】西加奈子『くもをさがす』(河出書房新社) コロナ禍のカナダで乳がんを罹患した西加奈子。「日本人には情があり、カナダ人には愛がある」とはバンクーバーに数年暮らした著者の見立てですが、医療関係者や友人そして家族との会話や関わりが愛に満ち溢れているところが本書の特長です。不安な日々の中で光明を見出そうとする著者の心情に寄り添う。そのかけがえのない光によって読者は著者とハグをしているような温かい気持ちになる一冊で 2023.05.02 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 35】池井戸潤『シャイロックの子供たち』(文春文庫) 「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊。」という池井戸潤の言葉がオビに掲載されています。この言葉で本書を手に取った方も多いのでは。今回は映画化のタイミングでもあり、再読も含め、いま多くの方々に読まれています。東京第一銀行長原支店で働くさまざまな行員たちを描いた群像劇の本書は、良質の短編集の切れ味と長編ミステリの周到さとを併せ持った作品です。 2023.04.17 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 34】池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社) 主人公のミステリ作家三馬太郎は亡き父の故郷のハヤブサ地区に移住し、消防団に入ることになる。その任命式当日に放火事件が起きてしまう。本書には次のような記述があります。「作家にとって一番の仕事は文章を書くことではなく、人の本質を見極めることである。」作家の力量のバロメーターであり、習性と言っていいこの心の在りようを読むことによって、三馬太郎は連続放火事件の真相に迫っていく。 2023.04.08 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 33】斎藤幸平『ゼロからの「資本論」』(NHK出版新書) 資本主義は放置すれば社会の富や自然の富を掠奪して破壊してしまう、とはマルクスの晩期の思想であり、その現れが現代の格差問題と気候変動であると著者は見ています。現代にマルクスを蘇らせることはできませんが、マルクスの『資本論』をベースに現代の諸問題を解決していくことを提言しています。資本主義の行き過ぎに「待った」をかけ、脱成長の社会システムへの転換が、瀬戸際の地球に生きるヒトの分相応の営みなのだと気づかされます。 2023.03.12 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 32】櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』(創元推理文庫) 著者櫻田智也のデビュー作の本書は、昆虫好きの主人公が探偵役の連作短編集です。普段はとぼけた感じなのですが、事件の謎に対しての推理の切れは鋭い。ブラウン神父や亜愛一郎シリーズに連なる創元推理らしい作品の登場です。それぞれ切ない物語であっても、主人公の飄々とした振る舞いが読後感を爽やかなものにしています。収録作の中では『火事と標本』が特におすすめです。 2023.03.12 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 31】エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』(河出書房新社) 初版から70年の間、16回もの改訂が繰り返された本書は、35カ国で翻訳されて世界一売れている(累計800万部)美術史の本です。国内でもNHKの番組「あさイチ」や月刊文藝春秋で原田マハが推薦して、昨年驚異的に売れました。ゴンブリッチ先生の授業が8,500円とはお値打ち。原田マハに倣って「序章から読み込むだけ読み込んで」みましょう。 2023.02.11 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 30】クリス・ウィタカー『われら闇より天を見る』(早川書房) 原題は「WE BEGIN AT THE END」人は終わりから始める。無法者を自認している13歳の少女が過酷な運命に抗いながら、家族を守るために突き進む姿に心を揺さぶられます。英国推理作家協会賞最優秀長篇賞(ゴールド・ダガー賞)受賞の本作は、年末ミステリベスト『このミス』と『週刊文春』両誌の海外編(2022)で堂々の第一位です。ぜひ。 2023.02.08 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 29】東畑開人『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書) 著者東畑開人は『居るのはつらいよ』(医学書院)で第19回(2019年)大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋書店じんぶん大賞2020を受賞。出版界で大いに注目される臨床心理士であり、文藝春秋や新潮社からの単行本や本書も版を重ねています。「聞く力」だけではなく、それを支える「聞いてもらう力」も必要である、というコミュニケーションの循環こそが社会を良くする第一歩のようです。 2023.02.06 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 28】河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書) 2017年の刊行以来、累計90万部突破の『未来の年表』シリーズの最新刊です。本書第一部では人口減少と少子高齢化が進む日本はまさに瀬戸際であり、各業界や職種にどんな未来が待ち受けているかを可視化しています。そして第二部では、人口減少に打ち克つための手順が提示されています。著者が示す「戦略的に縮む」とは・・・。 2023.02.05 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 27】ハン・ドンイル『教養としてのラテン語の授業』(ダイヤモンド社) 本書はラテン語の難解な文法を学習するための語学書ではありません。「Carpe diem カルペ・ディエム 今日に集中し、いまを生きろ」や「Do ut des ド・ウト・デス 与えよ、さらば与えられん」といった名言を読み解きながら、古代ローマ人からの叡智を授業さながら学ぶことができる人文書です。近年リベラルアーツを副題としている書籍の刊行が増えていますが、本書はその中で「真打ち登場」といった趣があります。 2023.02.04 読書三昧