読書三昧

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【おすすめ書籍 48】小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)

『ゲームの王国』で山本周五郎賞と日本SF大賞を受賞。『君のクイズ』で本屋大賞ノミネート、『地図と拳』で直木賞受賞といま最も注目されている作家の最新作です。本書は著者自身の本当の話かのような連作短編集です。小説家は想像によって架空の物語や事柄を創作しますが、本書に登場する占い師や金融トレーダー、漫画家も小説家同様に怪しげな「嘘」とともにに生きています。
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【おすすめ書籍 47】小野寺拓也 田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)

アウトバーン建設などナチスは経済回復に貢献した?ナチスは労働者の味方だった?など「ナチスは良いこともした」と主張する人が少なくないようです。ドイツ現代史が専門の著者二人が歴史学からみてナチスに評価できる点はあるのか、を本書で検証しています。2023年7月に刊行され、早くも6刷重版と岩波ブックレットでは異例の売れ方をしています。
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【おすすめ書籍 46】村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマ―新書)

客観性や数値、生産性が支配する社会で、もう少し生きやすくなるために視点を変える思考法とは。著者が調査している医療福祉現場では、客観性ではなく生々しい経験の個別性が持つ真理が他の誰にとっても真理で、個別の経験の内側に視点をとる営みを重視しています。個別の経験を尊重することはあらゆる人を尊重することを意味し、誰も取り残されない世界を目指すことになります。
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【おすすめ書籍 45】宮崎哲弥『教養としての上級語彙』(新潮選書)

本を読んでいると未知の言葉や難しい言回しに出くわすことがあります。辞書を引いて言葉の意味を知り、ノートやスマホのメモにその言葉を記録しておく方も多いのでは。中学の頃から書きつけてきた語彙ノートが数十冊に及ぶという著者は、語彙力の達人です。本書は使いこなせたら表現力が豊かになる、そんな上級語彙を〈自家薬籠中のもの〉とするための実用的指南書となります。
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【おすすめ書籍 44】高階秀爾『カラー版 名画を見る眼 Ⅱ』(岩波新書)

本書ではモネからカンディンスキー、モンドリアンまで近代絵画14人の巨匠による名画が紹介されています。著者が指摘している通り、制作年は1886年から1943年の作品ですので、わずか60年弱という短期間における変遷に驚かされます。印象派からフォーヴィスム、キュビスムを経て抽象絵画にいたるまで西洋絵画が短期間に激しい変貌を遂げた、歴史的背景を含め高階秀爾氏が解説します。
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【おすすめ書籍 43】池井戸潤『BT’63』(講談社文庫)

BTはBonnet Truckの略。ボンネットトラックとは、乗用車のようにエンジンが運転席前方のボンネットの中に収められているトラックのことです。1963年は著者の生まれた年でもありますが、当時の日本ではこのタイプのトラックやバスが走っていました。
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【おすすめ書籍 42】佐藤優 手嶋龍一『ウクライナ戦争の嘘』(中公新書ラクレ)

ウクライナの戦争は、超大国アメリカによって管理された戦争だ。とは米ロに精通した二人の著者の見立てです。ゼレンスキーの「無条件勝利」をNATO諸国がこのまま支持していたら、この戦争は10年続くこともありうる。だから戦争終結のための処方箋が必要なのだと説いています。本書の中で、高坂正堯『国際政治』(中公新書のロングセラー)が紹介されています。こちらもぜひ。
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【おすすめ書籍 41】宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

小学校の卒業文集に書いた将来の夢は「二百歳まで生きる」。大津市唯一のデパート西武大津店が一か月後に営業終了する時に「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。この小説の主人公成瀬あかりのスケールの大きさは桁外れです。加えて「しかし、至らないことが多くて・・・」と反省するところもあり、大いに惹きつけられます。群を抜いた面白さであり、続編が待ち遠しい作品です。
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【おすすめ書籍 40】村上春樹『街とその不確かな壁』(新潮社)

本書のあとがきを読むとこの小説の成り立ちがわかります。核となったのは、1980年に「文學界」に発表された『街と、その不確かな壁』という中編小説で、40年後のコロナ禍という異様な環境下で根本から書き直し、完成させたのが本書です。一つのものが二つのストーリーを生み出し、二つのものが最後に一つに合体していく・・・。時を重ねた熟成の幻想世界を味わってください。
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【おすすめ書籍 39】高階秀爾『カラー版 名画を見る眼 Ⅰ』(岩波新書)

1969年の初版から50年以上読み継がれてきたロングセラーが、カラー版として刷新されました。15点の名画をカラーで鑑賞できることに加えて、本文で言及した絵画、彫刻などの参考図版63点が新たに収載されています。本書では15世紀のヤン・ファン・エイク畢生の名作から19世紀のマネの革新的な作品までの、西洋美術史の中でも輝かしいひとつのサイクルを高階秀爾氏が読み解いていきます。