読書三昧 【おすすめ書籍 64】星野道夫『旅をする木』(文春文庫) 単行本の刊行が1995年8月。そして著者は96年8月に急逝しています。30年前に戻ることはできませんが、本書で著者が17年間住み続けたアラスカの息遣いをいまでも知ることができます。星野道夫の写真展開催など、いまも何処かで星野道夫の想いを繋いでいる人や時間が確実に存在しています。読書家でもある著者の名文をぜひ味わってください。 2024.09.08 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 63】宮嶋勲『最後はなぜかうまくいくイタリア人』(日経ビジネス人文庫) 「Carpe diem、カルペ・ディエム」とは「いまを生きる」という意味のラテン語です。イタリア人にはこの言葉が古代から沁みついているのでしょう。イタリア人にとってアポの時間とは努力目標ぐらいで、その時その時を一所懸命に生きるため、アポの時間に遅れがちになります。ルーズと思われますが、遅刻することもある意味ルールのようです。日本人やドイツ人の勤勉さの対極にあるイタリア人の寛容さが本書に満ち溢れています。 2024.07.14 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 62】『「RRR]で知るインド近現代史』(文春新書) 話題のインド映画『RRR』を観た人にとって、エンドロールの八人の肖像は印象的です。本書ではインド独立運動や民族運動で活躍したこの八人の「フリーダム・ファイター(自由の闘士)」について多くの頁を割いています。インドこそ「民主主義の母」と発信し、2022年にはインドGDPが米中日独に次いで世界第五位となり、遂にイギリスを抜きました。本書は大国となったインドの近現代史を知るための絶好の入門書です。 2024.07.07 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 60】宇佐美まこと『羊は安らかに草を食み』(祥伝社文庫) 満州からの引き揚げという苦難を体験した者たちの生涯隠し通した「秘密」とは。認知症になった友人の人生を辿る、八十歳前後の女性三人による旅と彼女が子供だった頃の満州からの引き揚げという2部構成で、その「秘密」が徐々に明らかになっていきます。本書では満州で育った人々から中国語のメイファーズという言葉が出てきます。悲しみを受け入れて前へ進むしかないことを意味する象徴的な言葉です。 2024.06.05 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 59】ラテン語さん『世界はラテン語でできている』(SB新書) 古代ローマ帝国の隆盛やラテン語が世界を席巻していたことの誇りがあるのでしょう。イタリアでは高校でラテン語を必須教科にしていることが本書を読むとわかります。「SPQR」「Audi」「VICTORIBUS PALMAE」「SINE METU」。現代の日本でも美術館や街中あるいは自宅の食卓でも、これらのラテン語を見かけることがあり、ちょっと豊かな気分に浸れます。教養としてのラテン語ブームはまだまだ続きそうです。 2024.04.13 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 58】外山滋比古『新版 思考の整理学』(ちくま文庫) 1986年4月24日の文庫化第一刷発行から40年近くで287万部のロング&ベストセラー。毎年3月から5月のこの時期になると面白いように売れていた殿堂入りの一冊です。今回の新版では、2009年の東大特別講義「新しい頭の使い方」が初収録されたほか、文字も大きくなり一段と読みやすくなりました。「思考の整理には、忘却がもっとも有効である」という言葉には、いつ読んでも救われます。 2024.03.24 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 57】池上彰 佐藤優『グリム、イソップ、日本昔話 人生に効く寓話』(中公新書ラクレ) 新自由主義の現代を生き抜いていくのは大変です。そんな時代だからこそ、20篇の寓話や昔話が人生の指針に効くのだと、二人が読み解いていきます。かつて倉橋由美子の『大人のための残酷童話』や桐生操の『本当は恐ろしいグリム童話』が良く売れていましたが、その系譜に連なる本作も時代に抗うレジリエンスという読み方が加わり、多くの読者を獲得しています。 2024.03.24 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 56】宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社) 『成瀬は天下を取りにいく』で鮮烈に登場した主人公の成瀬あかりは、2024年元日恒例の新潮社の新聞広告にも出ていました。成瀬がますます大物になってきたことが実感でき、ファンとして嬉しい限りです。続編である本作は大学を受験、入学した成瀬が学校やアルバイト先、地域で新たに個性豊かな人々と知り合います。いつしか頼もしくなっている彼らの成長を永く読んでいたい! 2024.02.23 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 55】常盤新平『山の上ホテル物語』(白水社) 昭和29年創業の山の上ホテルは、建物の老朽化への対応を検討するため、70周年を迎える2024年2月13日より当面の間、休館することとなりました。ホテルの外観や月刊文藝春秋等への広告コピーを思い出された方もさぞかし多いことと思います。吉田俊男という不世出のホテル屋と「この人」にならついてゆけると思った人々の物語をこの機会にぜひ味わってください。 2024.02.23 読書三昧
読書三昧 【おすすめ書籍 54】高坂正堯『歴史としての二十世紀』(新潮選書) ウクライナ戦争やイスラエルによるパレスチナガザ地区への侵攻など戦争が続いているこの時代に、『国際政治』や『文明が衰亡するとき』の著者生前の名講演が書籍化されました。「〈いい人〉の政治家が、なぜ戦争を起こすのか」「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」氏が語る「戦争の世紀」が再来した今、あらためて高坂史観を学ぶ人が増えてほしいと思える一冊です。 2024.01.14 読書三昧