【おすすめ書籍 36】内藤博文『世界史を動かしたワイン』(青春新書)

休日ワイン

重厚なボルドーワインの登場は17世紀後半。ボルドーは元々イングランド王の領地だったこともあり、イギリスの哲学者ジョン・ロックもオーブリオンを愉しんでいたという逸話があるくらい、多くのイギリス人に愛飲されていました。ルイ14世はボルドーではなくハンガリーのトカイワインの蠱惑的な魅力の虜になっていたことなど、世界史の舞台の中心にはワインが存在していたことを本書で知ることができます。

第1章 古代ギリシャの民主政治とキリスト教を育てたワイン

ワインの歴史を繙きながら、美味しいワインとの出会いを愉しみましょう。ワイン発祥の地はジョージアあたりで、紀元前6000年頃の遺跡から陶器の壺が出土していることによります。古代オリエントやエジプトでワインが神秘的なものとして再生の薬としても崇められたようです。本書によると古代ギリシャ人のワインの飲み方は、食事のあとに水で割って飲んでおり、ワインを食中酒として水で割らずに味わうようになったのはローマ人からです。古代ローマ帝国は木製の樽の発明でワインとともに拡大していき、アルプス以北でも葡萄が栽培されるようになったのです。あの「ロマネコンティ」の「ロマネ」とは「ローマ」に由来します。

『世界史を動かしたワイン』の本書では著者内藤博文氏による写真付きでワインを紹介するコラムがあります。ワイン選びにもとても参考になりますのでぜひお読みください。ちなみにこのブログで広告掲載しているワインは、僕のお気に入りのワインであったり、興味があるもので、著者が紹介されているものとは異なりますのでご注意ください。

ギリシャワイン、といえば「ドメーヌ・シガラス・サントリーニ アシルティコ」がおすすめです。渡辺順子氏の『語れるワイン』で創業30年ほどで世界トップ100ワイナリーにランクインと紹介されていました。確かにキレのある味わいは高く評価したいスグレモノです。

本書のカバーにもなっている絵画「カナの婚礼」をご存じですか?ルーブル美術館にある、ヴェネチア派ヴェロネーゼの作品で666㎝×990㎝と大きいものです。イエスにはワインにまつわるエピソードに「カナの婚礼」があり、大きな水瓶の水をワインに変えた奇跡というものです。それもイエスは人を感嘆させるほどのワインを生み出したものですから、イエスを受け継ぐ者たちによきワインを造らねばならない精神が宿ったわけです。また「最後の晩餐」ではワインを私の血だと弟子たちに告げたことによって、キリスト教にとってワインは信仰に不可欠な飲み物になり、修道会を通じてワインの文化を育んでいくことになります。

第2章 カール大帝と修道院が復活させたワイン文化

世界史のみならず、ワインの歴史でもその名を刻んだのが、フランク王国のカール1世です。フランスでは「シャルルマーニュ」「大帝」と呼ばれ、8世紀後半には西ヨーロッパ世界を再統合したことで「ヨーロッパの父」でもあります。カール1世はラインガウ地域をドイツワインの屈指の名産地に働きかけたことのほか、ブルゴーニュの成長にも貢献し、モンラッシェに比肩しうる白ワイン「コルトンシャルルマーニュ」というブルゴーニュの銘ワインの名としていまでも燦然と輝いています。

教会改革の嚆矢となり、ワインの生産で力をつけたクリュニー修道院とそこに反発して登場したシトー派修道会はブルゴーニュで興ります。土地によってワインが異なる味わいになることを経験し、テロワールの関係に初めて気づいたのがシトー派修道士たちのようです。シトー派修道士によって生み出された最高の畑は「クロ・ド・ヴジョ」。「クロ」とは壁で囲いをした農地。石壁で囲ったのには、意味があります。その意味とは?ワインの品質向上に邁進したシトー派修道士の、イエスに忠実であろうという強い信仰心を感じます。

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